本音

 会衆の交わりがあった。時間が来て、三々五々解散したのだが、その後でも残った伝道者の子と酒を飲みながら色々と話していた。
 彼も大学生で一人暮らしをしている。幼い頃から親に付いてきて集会に居たらしいが、20歳を越えてなおバプテスマを受けないでいる。前々から何となく、その背景には何かあるのではないか、と思っていたので良い機会と思い色々と聞いてみることにした。
 大学生ともなるとJWは殻が出来ていて、自分の過去や心情を話したがらない人が多い。その彼もそういうタイプだった。大学で4年間付き合ううちにいつしか彼は殻を破ってくれ、最近では色々打ち明けてくれることも多くなった。殻が出来て居る子は他人を信用していない。それはひとえに幼い頃の体験がそうさせているのだろう。
 彼の家は、幼い頃に母親がエホバを学んだため家の中が喧嘩だらけになったという。父親との口論が絶えず、家は安らぎの場ではなく混乱の場だったという。子供としてはどっちの親にもいい顔をする事を覚え、それがいつしか人に本音を言わない自分を作ったようだ。
 そんな彼にこれから卒業後どうしていくのか聞いてみた。彼としては、父親の手前もあり昔から一歩引いて学んでいたそうだ。子供はどうしても父より母に付いて育つので当然最初はエホバに身を置いていたが、段々大人になり大学生にもなると社会のこととかエホバの矛盾が解ってくる。それを見てなお熱心になれるか?というとそれは出来ず、それが今の彼の未献身という状態に至っている原因らしい。
 私の気持ちなども色々話して彼の警戒心を解いていった。他人の秘密を知るには自分の気持ちも吐露しなければ真の話は聞けない。最期の方は、エホバの中に当面留まるだろうがこれから先はどういう進路を取るか解らないという感じで話は終わった。彼もまた、これからJWと世、父と母の間で揺れ動いていくんだろう。
 端的に言えば・・・私も彼も、母親への義理立ての為に今のところエホバの証人に留まっているらしい。