大学への憧れ

 職場には一人、元開拓者で一流国立大を出ているA兄弟が居た。今は疲れてしまい集会に行っていないようだったが、頭もよく造園の仕事もすぐ覚え、造園の各種難関試験を簡単に突破した凄い人。でも、身分はアルバイトのままでいた。
 私はその人と話をするのが好きだった。頭がいいのが外ににじみ出ている人で、そういうスキルがあるけどあえて造園を選択していると言う感じ。でも、決して頭の良さをひけらかさず、たまにみせる「きらり」と光る言葉の端々にうっとりした。
 そんなA兄弟は私が入っ2ヶ月でほかの職場に移った。私は短期間だったが凄く親しくなったので、いくつか理由を聞けた。理由は「親と離れたい」のと「定職に就きたい」というものだった。都会の都市にある大規模な造園会社に入るようで、うちの会社とは規模も内容も雲泥の差。「本当は現場仕事をしたいんだけど、監督とか事務的な仕事もありかなと思う」と言っていた。
 大卒で現場仕事が好きな人が居るんだ、と思い当時は感心するやらうらやましくなるやらだった。人付き合いがあまり好きでないらしく、そういう点で会社の中では孤立気味だったが仕事はきっちりこなす人だったので尊敬していた。これからも色々教えてもらいたかっただけに非常に辛い別れだった。
 たまに会社の人に「あのA君は国立大出てるんだぞ、おれらとは住む世界が違うんだ。」と言われ「おれら」の“ら”に自分が含まれていることが悲しくなった。この頃おぼろげながら大学というものに憧れが強くなった気がする。入学など夢のまた夢だったが。